日本の小学校で英語が必修化されて数年が経ちました。
子どもたちは英語の音と文字を結びつける力を、本当に身につけられているのでしょうか。
2024年にKaori Nakao氏らが発表した研究では、小学3〜6年生を追跡調査し、現行カリキュラムの効果と限界が明らかになりました。
音と文字をつなぐ力は学年が上がるにつれて伸びるものの、毎年一段ずつ着実に伸びているわけではない――。
――そんな研究結果が明らかになりました。
目次
論文の概要

研究の背景と目的
日本では2020年から外国語が小学校の正式な教科に加わりました。
しかし教員研修への投資は限定的で、現場の負担は決して軽くありません。
そこでこの研究では、英語の
「音と文字を結びつける力」
がどのくらい育っているかを確かめました。
この力は専門的にはフォニーム・グラフィーム認識(PGR)と呼ばれます。
母語でも外国語でも、読み書きの土台となる重要な力だとされています。
対象と調査の進め方
調査の対象は、日本のある小学校に通う3〜6年生の児童たちでした。
参加した子どもの数や調査時期は、次のように整理できます。
- 対象:小学3年生〜6年生
- 参加者:256名(うち女子130名)
- 調査時期:1学期(7月)と3学期(3月)の2回
- 方法:通常授業の中で同じテストを実施
同じテストを2回受けることで、半年あまりでどれだけ伸びたかを測れる仕組みです。
分析の方法と結果の概要
得られたデータは、統計的な手法で丁寧に比べられました。
学年ごとの差と、半年後の伸びの両方が確認されています。
その結果、学年が上がるほど成績が高くなる傾向が明確に示されました。
ポイント
この研究は、現場の実態をそのまま映し出した貴重な縦断調査です。
子どもたちが半年でどう変わるかを、同じテストで丁寧に追いかけています。
分かったこと

学年が上がるほど力は伸びる
まず最も大きな発見は、学年ごとに能力差がはっきり出たことでした。
3年生から6年生にかけて、音と文字を結ぶ力は確実に伸びていたのです。
統計的にも意味のある違いが確認されたと報告されています。
半年の間にも子どもたちは成長しており、現行のカリキュラムが一定の効果を持つことが示されました。
「2段階」でしか伸びていない現実
ところが詳しく見ると、興味深い特徴が浮かび上がってきました。
能力差は3〜4年生と5〜6年生の2グループに分かれていたのです。
言い換えると、3年生と4年生の間、5年生と6年生の間ではあまり差が見られませんでした。
本来であれば1学年ごとに少しずつ伸びるのが理想です。
しかし実際には
「2段とび」
の階段のような伸び方になっていたわけです。
カリキュラムへの示唆
この結果は、現行の指導内容にいくつかの課題があることを示しています。
主なポイントを整理すると次の通りです。
- 大枠としては子どもの力は伸びている
- ただし毎年確実に伸びる設計にはなっていない
- 学年ごとの目標や指導の密度に改善の余地がある
つまり、現状の指導は
「ある程度は機能している」
一方で
「もう一歩踏み込んだ工夫」
が求められると言えるでしょう。
日常で活かせること

音と文字を結ぶ遊びを取り入れる
最初におすすめしたいのは、音と文字を意識的に結びつける遊びです。
例えばアルファベットカードを見せて、その音を一緒に発音してみましょう。
歌やチャンツを使うのも効果的だと言われています。
難しい単語ではなく、まず
「a, b, c」
の音そのものに親しむことが第一歩です。
学年の節目で「立ち止まる」習慣を
研究では、4年生から5年生へ上がるときに能力の伸びがやや停滞することが示唆されました。
この時期こそ、これまで学んだことを振り返るチャンスです。
学校や家庭で、簡単な復習タイムを設けてみてはどうでしょうか。
取り入れやすい復習法
1日5分、英単語の最初の音を聞き取る・絵本の表紙の文字を声に出す・知っているアルファベットの音を書き出すなど、短時間でも繰り返すことが力になります。
「正解」よりも「気づき」を褒める
音と文字の学びでは、最初から完璧を目指す必要はありません。
大切なのは
「あ、この文字はこの音だ」
と気づく瞬間です。
子どもがそう気づいたときに、思いきり褒めてみましょう。
正しさよりも発見を肯定する関わりが、学びを長く支えてくれます。
まとめ

今回の研究からは、日本の小学校英語教育が一定の成果を上げつつも、課題を抱えていることが見えてきました。
音と文字を結ぶ力は、英語を読み書きする上で欠かせない基盤です。
- 学年が上がれば力は伸びるが、毎年均等にではない
- 3〜4年生と5〜6年生の「2段階」で大きな差が生まれる
- 家庭でも学校でも、音と文字を結ぶ小さな活動が役に立つ
ぜひ今日から、教育や学びの場で取り入れてみてください。
【参考論文】
Developing Phoneme-Grapheme Recognition for English as a Foreign Language: A Longitudinal Study at Japanese Primary School
著者: Kaori Nakao, W. L. Quint Oga-Baldwin, Luke K. Fryer(2024年)
DOI: https://doi.org/10.26822/iejee.2024.335