オランダのアムステルダム大学を中心とする研究チームが2021年に発表した論文
「Social Media Use and Adolescents’ Self-Esteem: Heading for a Person-Specific Media Effects Paradigm」
が注目を集めています。
筆頭著者はPatti M. Valkenburg氏で、共著者にはIne Beyens氏やJ. Loes Pouwels氏らが名を連ねています。
この研究は、SNSが思春期の若者の自己肯定感にどう影響するかを丁寧に調べた大規模な調査です。
これまでの研究では、SNS利用と自己肯定感の関係について結果がバラバラでした。
そこでValkenburg氏らは、影響の出方は人それぞれ違うのではないかという新しい仮説を立てました。
結果として、SNSの使い方が心に与える影響は一律ではないことが明らかになりました。
目次
論文の概要

研究の対象と目的
この研究では、13〜15歳の思春期の若者387人が対象となりました。
参加者の54%が女子で、思春期前期にあたる年齢層を幅広くカバーしています。
研究の目的は、SNS利用が自己肯定感に与える影響を一人ひとりのレベルで調べることでした。
従来の研究は集団全体の平均値で結論を出していたため、個人差が見えにくかったのです。
そこで個別の影響を捉える新しいアプローチに挑戦したという研究です。
どのように調べたか
調査期間は3週間にわたり、参加者は1日6回もスマートフォンに回答しました。
その時々のSNSの使い方と気分の状態を、その場で記録してもらう方法を取っています。
この方法は
「経験サンプリング法」
と呼ばれるものです。
1人あたり126回、全体では34,930件もの膨大なデータが集まったと報告されています。
- 対象:13〜15歳の思春期の若者387人(女子54%)
- 期間:3週間の連続調査
- 回数:1日6回×参加者ごとに126回の回答
- 総データ数:34,930件
分析方法の特徴
分析には、動的構造方程式モデリングという統計手法が使われました。
難しい名前ですが、要するに一人ひとりを別々に分析できる手法です。
従来の手法では全員の平均しか分かりませんでした。
この方法を使うことで、Aさんへの影響とBさんへの影響を区別して見られるようになったのです。
ポイント
この研究の革新性は、平均ではなく個人差に注目したところにあります。
同じSNSでも、人によって心への作用が大きく異なる可能性を初めて科学的に示そうとした試みです。
分かったこと

最も重要な発見
最大の発見は、SNSの影響が人によって大きく異なるという事実でした。
全体の88%の若者は、SNS利用が自己肯定感にほとんど影響を与えていません。
影響の出方は3パターンに分かれることが明らかになっています。
つまり、SNSは万人に同じ作用をもたらすものではないと言えるでしょう。
- ほぼ影響なし:88%の若者
- ポジティブな影響あり:4%の若者
- ネガティブな影響あり:8%の若者
ネガティブな影響を受ける層
注目すべきは、8%の若者がSNSによって自己肯定感を下げていた点です。
この層の影響度は統計的にも明確で、見過ごせない数字と言えます。
少数派ではあるものの、クラスに2〜3人はこうした子がいる計算になります。
SNSのリスクは確かに存在し、特定の若者に集中している可能性があるという見方もできます。
ポジティブな影響を受ける層
一方で、SNSによって自己肯定感が高まる若者も4%いると報告されています。
友達からの
「いいね」
やコメントが、自分への自信につながるケースです。
SNSは一概に悪者扱いできるものではないという事実も浮かび上がりました。
使い方や本人の特性によっては、心の支えにもなり得るのです。
ポイント
SNSの影響を「良い/悪い」と単純に分けることはできません。
同じプラットフォームでも、ある子には支えとなり、別の子には負担となる可能性があるという視点が大切です。
日常で活かせること

一律のルールではなく個別の対話を
SNSの影響が人それぞれである以上、画一的なルールには限界があります。
家庭や学校では、子ども一人ひとりの様子を丁寧に観察してみましょう。
SNS後の表情や気分の変化に目を向けることが第一歩です。
同じ時間の利用でも、明るくなる子と落ち込む子がいるかもしれません。
そうした個別の違いを尊重した関わりが求められます。
気分のセルフチェックを習慣にする
子どもや学生自身も、自分の心の動きを観察する習慣を持つとよいでしょう。
SNSを開く前と閉じた後で、自分の気分はどう変わったでしょうか。
気分が下がるパターンが見えてきたら、使い方を見直すサインかもしれません。
逆に元気が出るなら、その使い方を大切にしたいところです。
困っているサインを見逃さない
影響を受けやすい少数派の子どもへの配慮が特に重要です。
SNS利用後にイライラしたり落ち込んだりする様子は、注意すべきサインと言えます。
そうした変化に気づいたとき、責めるのではなく一緒に考える姿勢が大切です。
ポイント
「SNSは何時間まで」といった一律のルールよりも、その子にとってSNSがどう作用しているかを見る視点が重要です。
本人と一緒に振り返る時間を持つことで、健全な使い方が育まれていきます。
まとめ

SNSが思春期の自己肯定感に与える影響は、人によって大きく異なることが分かりました。
88%は影響が小さく、残りは良い影響と悪い影響に分かれるという発見でした。
大切なのは、一律の対応ではなく一人ひとりに目を向ける姿勢ではないでしょうか。
- SNSの影響は人それぞれで一括りにできない
- 少数だが明確に影響を受ける層が存在する
- 個別の様子を観察する関わりが鍵となる
ぜひ今日から、教育や学びの場で取り入れてみてください。
【参考論文】
Social Media Use and Adolescents’ Self-Esteem: Heading for a Person-Specific Media Effects Paradigm
著者: Patti M. Valkenburg, Ine Beyens, J. Loes Pouwels, Irene I. van Driel, Loes Keijsers(2021年)
DOI: https://doi.org/10.1093/joc/jqaa039