自閉症の女の子が抱える見えない努力とは?思春期メンタルを守る視点

クラスでは普通に過ごせているのに、家に帰るとぐったり疲れている子どもを見たことはありませんか。

あるいは、自分自身が周りに合わせようと無理を続けて、心が疲れてしまった経験はないでしょうか。

実は、自閉スペクトラム症(ASD)の子ども、とくに女の子の中には、困難を隠して周囲に溶け込もうと努力している人が多いと指摘されています。

この現象はカモフラージュと呼ばれ、近年大きな注目を集めるテーマになりました。

2020年にHenry Wood‐Downie氏らが発表した論文

「Sex/Gender Differences in Camouflaging in Children and Adolescents with Autism」

では、子どもと思春期の若者を対象に、この性差が初めて科学的に検証されました。

今回はその研究結果を読み解きながら、家庭や学校で活かせる視点を一緒に考えてみましょう。

 

 

 

論文の概要

 

子どもの行動を研究する論文のイメージ

 

研究の対象と目的

 

この研究は、自閉症の子どもと思春期の若者を対象に、男女で見られる行動の違いを調べたものです。

とくに

「カモフラージュ」

と呼ばれる、困難を隠して周りに合わせようとする行動に焦点が当てられました。

これまで大人を対象にした研究はありましたが、子どもや思春期での性差はあまり調べられていませんでした。

ここで興味深いのは、自閉症の診断が女の子で遅れがちだという事実です。

その背景にカモフラージュがあるのではないか、という仮説を確かめようとした研究と言えるでしょう。

 

どのように調べたか

 

研究には合計84名の子どもと思春期の若者が参加しました。

自閉症の診断がある子どもと、診断のない子どもの両方が含まれています。

研究者たちはカモフラージュを、2つの観点から測定しました。

1つは行動面の隠し方、もう1つは心の働きで補おうとする力です。

言語性IQの影響を除いたうえで、男女別・診断別の比較がおこなわれました。

 

研究の枠組み

 

分析には、共分散分析(ANCOVA)という統計手法が用いられています。

これによって、知的能力の違いを差し引いたうえで純粋な性差を見ることができました。

シンプルに言えば、条件をそろえたうえで男女差を浮き彫りにする工夫がされたのです。

 

ポイント

カモフラージュには行動で隠す「行動的カモフラージュ」と、心の働きで補う「補償的カモフラージュ」の2種類があると考えられています。

 

分かったこと

 

静かに考え込む女の子の姿

 

女の子は男の子よりカモフラージュが顕著

 

最も重要な発見は、自閉症の女の子でカモフラージュが強く現れるという結果でした。

具体的には、自閉症の女の子は定型発達の女の子と同じくらい、人とのやりとりがスムーズに見えたのです。

一方で、自閉症の男の子は定型発達の男の子よりやりとりの力が低いと示されました。

つまり、同じ自閉症でも女の子のほうが

「外から見えにくい」

状態にあると言えそうです。

 

同じ特性なのに行動が違うという事実

 

自閉症の男の子と女の子で、自閉症の特性そのものの強さに大きな差はありませんでした。

それなのに、女の子のほうが社会的なやりとりは上手に見えるという結果です。

これは行動の面で工夫して

「ふつうに見せている」

可能性を示しています。

言い換えると、特性の重さと外見上の困難さは一致しないということが分かりました。

 

心の働きでカバーする力

 

もう一つ注目すべきは、心の働きの面での違いです。

他者の気持ちを推測する力(心の理論)は、自閉症の男の子と女の子で同じ程度でした。

にもかかわらず、女の子のほうが実際のやりとりは円滑だったと報告されています。

これは、限られた力を別の方法で補っている可能性を示すものです。

 

  • 女の子は周囲に合わせる「カモフラージュ」が強い
  • 自閉症特性の強さは男女で同程度なのに、行動の見え方が違う
  • 心の理解力が同程度でも、女の子は別の方法でカバーしている

 

日常で活かせること

 

家庭で子どもの話に耳を傾ける場面

 

見えにくい困難に気づく目を持つ

 

外から見て

「問題なさそう」

と思える子でも、内側で大きな努力をしている可能性があります。

とくに女の子は集団に溶け込もうと頑張りすぎる傾向があると指摘されました。

家庭や学校では、表面の様子だけで判断しないことが大切です。

帰宅後に極端に疲れていたり、急に元気を失ったりするサインに目を向けてみましょう。

 

安心して「素」を出せる場をつくる

 

カモフラージュを続けると、心の疲れが蓄積していくと考えられています。

だからこそ、無理に合わせなくてよい時間と場所が必要です。

家庭ではゆったり過ごせる時間を意識的に確保したいところです。

学校でも、静かに過ごせるスペースや一人になれる選択肢があると安心につながります。

 

実践のヒント

「今日は頑張ったね」と努力そのものを認める言葉は、隠れた疲れを抱える子どもの心を支える助けになります。

 

支援を早めにつなぐ視点

 

女の子は困難が見えにくいため、支援につながるのが遅れがちだと言われています。

「困っていそう」

と感じたら、迷わず専門家に相談してみてはどうでしょうか。

本人が自分の特性を理解することも、自己受容の大きな一歩になります。

無理を続けてからではなく、早めの一歩が思春期メンタルを守るカギです。

 

まとめ

 

リラックスして過ごす思春期の子ども

 

今回の研究からは、自閉症の女の子が困難を隠して周囲に合わせている実態が浮かび上がってきました。

外見の様子だけで子どもの状態を判断しない視点が、改めて大切だと言えるでしょう。

 

  • カモフラージュは女の子で強く現れる傾向がある
  • 表面の行動と内側の困難は一致しないことがある
  • 安心して「素」を出せる場と早めの支援が思春期メンタルを守る

 

ぜひ今日から、教育や学びの場で取り入れてみてください。

 

【参考論文】

Sex/Gender Differences in Camouflaging in Children and Adolescents with Autism

著者: Henry Wood‐Downie, Bonnie Wong, Hanna Kovshoff, William Mandy, Laura Hull ほか(2020年)

DOI: https://doi.org/10.1007/s10803-020-04615-z

 

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