いま世界中で、理系分野における男女格差が大きな課題となっています。
特に日本では、理数系科目に対する女子の関心が低い傾向が続いています。
こうした現状に対し、短期間の教育プログラムで意識を変えられるのでしょうか。
2021年にRie Kijima氏らが発表した論文があります。
タイトルは
「Using design thinking to cultivate the next generation of female STEAM thinkers」
です。
この研究では、日本で行われた3日間のワークショップの効果が検証されました。
デザイン思考を使った短期介入が女子の理系意識を大きく変えたという注目の成果が報告されています。
目次
論文の概要:デザイン思考で女子の理系意識に挑んだ研究

この研究は、日本の女子生徒を対象に行われました。
STEM(科学・技術・工学・数学)への関心を高めることが目的です。
具体的には、3日間の
「デザイン思考ワークショップ」
が実施されました。
デザイン思考とは、問題を発見し、解決策を生み出す考え方のことです。
相手の気持ちに寄り添い、試行錯誤しながらアイデアを形にしていきます。
ポイント
デザイン思考は「共感→問題定義→アイデア創出→試作→検証」の5段階で進みます。
技術的な知識がなくても、誰でも取り組める手法です。
研究では
「混合研究法」
が使われました。
これはアンケートなどの数値データと、インタビューなどの質的データを組み合わせる方法です。
ワークショップの前後で、参加者の意識がどう変化したかを多角的に分析しています。
学びの基盤には
「構成主義」
という考え方が置かれました。
これは、学ぶ人自身が体験を通じて知識を組み立てていくという学習理論です。
一方的に教わるのではなく、自分で考え、手を動かすことが重視されました。
わかったこと:短期間でも意識は大きく変わる

ワークショップ後、参加者にはさまざまな変化が見られました。
工学(エンジニアリング)への関心が大きく高まったことが報告されています。
それまで理系に興味がなかった参加者にも、前向きな変化が現れました。
創造的自信の向上
自分のアイデアに自信を持てるようになった参加者が増えました。
これは
「クリエイティブ・コンフィデンス(創造的自信)」
と呼ばれるものです。
自分にも新しいものを生み出せるという感覚が育まれたのです。
共感力と社会性の高まり
他者の視点に立って物事を考える力も向上しました。
困っている人を助けたいという気持ちも強くなったと報告されています。
デザイン思考の出発点が
「共感」
であることが影響していると考えられます。
キャリアの選択肢が広がった
将来の職業に対するイメージにも変化がありました。
理系の仕事も選択肢に入れる参加者が増えたのです。
たった3日間で、進路に対する視野が広がったといえます。
ポイント
変化は「知識の量」ではなく「自分への信頼」や「視野の広がり」に現れました。
短期間でも、体験型の学びは心の持ち方を変える力があります。
この研究が示しているのは、長期プログラムだけが有効ではないということです。
短い介入でも、設計次第で大きな効果を生むことができます。
日常で活かせること:学びの場で取り入れたい3つの工夫

この研究の知見は、日々の教育や学びの場でも活かすことができます。
大切なのは
「正解を教える」
より
「考える体験を提供する」
ことです。
以下に、具体的な実践アイデアを3つ紹介します。
1. 身近な課題を「自分ごと」として考える機会をつくる
デザイン思考の第一歩は、身近な困りごとに気づくことです。
学校や家庭で
「誰のどんな困りごとを解決できるか」
を話し合ってみましょう。
問題を見つけること自体が、立派な学びの体験になります。
2. 失敗を歓迎する雰囲気をつくる
創造的自信を育てるには、失敗が許される環境が不可欠です。
試作品をつくって壊し、また改良する過程こそが学びの中心です。
「うまくいかなかった経験」
を肯定的に振り返る習慣を大切にしましょう。
3. 理系・文系の枠を超えた体験を取り入れる
STEAM教育では、科学や技術にアート(芸術)の視点を加えます。
絵を描く、物語をつくるなどの活動と理系的な発想を組み合わせてみてください。
分野の壁を越えることで、多様な関心が引き出されます。
ポイント
特別な設備や専門知識がなくても実践できるのがデザイン思考の強みです。
紙とペンがあれば、今日からでも始められます。
重要なのは、性別に関係なくすべての人が挑戦できる場を整えることです。
固定観念にとらわれず、自由に考えられる環境が可能性を広げます。
まとめ

3日間のデザイン思考ワークショップは、女子の理系意識に大きな変化をもたらしました。
短期間でも体験型の学びは自信と視野を広げる力があることが、この研究で示されています。
- デザイン思考は「共感」から始まる問題解決の手法で、理系の知識がなくても取り組める
- 3日間の短い介入でも、創造的自信・共感力・キャリア意識に前向きな変化が生まれた
- 失敗を歓迎し、分野を越えた体験を取り入れることで、誰もが可能性を広げられる
ぜひ今日から、教育や学びの場で取り入れてみてください。
【参考論文】
Using design thinking to cultivate the next generation of female STEAM thinkers
著者:Rie Kijima, Mariko Yang-Yoshihara, Marcos Sadao Maekawa(2021年)
DOI:https://doi.org/10.1186/s40594-021-00271-6