2020年春の一斉休校は、子どもだけでなく大人の心にも大きな影を落としました。
特に深刻な影響を受けたのは、小学生の子どもを持つ母親たちでした。
父親のメンタルヘルスには大きな変化が見られなかった一方、母親だけが心の不調を抱えていたのです。
さらに驚くべきことに、その影響は学歴によって差があったといいます。
この発見は、Eiji Yamamura氏とYoshiro Tsustsui氏が2021年に発表した論文
「School closures and mental health during the COVID-19 pandemic in Japan」
で明らかにされました。
――そんな研究結果が明らかになりました。
目次
論文の概要 – どんな研究か・誰が対象か

この研究は、コロナ禍の一斉休校が親の心に与えた影響を調べたものです。
対象となったのは、2020年3月中旬から4月中旬にかけての日本の大人たちです。
研究者たちは短期間のパネルデータを使って分析を行いました。
パネルデータとは、同じ人を繰り返し調査して得たデータのことです。
同じ人の変化を追えるため、因果関係に迫りやすい手法です。
分析には
「固定効果モデル」
という統計手法が使われました。
これは個人ごとの性格や背景の違いを取り除き、純粋に休校の影響を取り出す方法です。
研究者たちが注目したのは、次のような比較でした。
- 学齢期の子を持つ母親と、それ以外の女性の比較
- 学齢期の子を持つ父親と、それ以外の男性の比較
- 母親の学歴による違い
- 子どもの年齢(小学生か中学生か)による違い
一斉休校によって、昼間の子どものケアは家庭に委ねられました。
その負担が誰の心に、どれほど重くのしかかったのかを丁寧に検証した研究です。
わかったこと – 難しい内容をやさしく要約

研究からは、はっきりとした男女差が見えてきました。
休校によって母親のメンタルは悪化した一方、父親には変化がなかったのです。
育児の負担が母親に偏っていた現実が、数字として浮き彫りになりました。
さらに興味深いのは、母親の中でも影響に差があった点です。
心の不調が顕著だったのは、小学生の子を持つ学歴の低い母親でした。
中学生の子を持つ母親には、同じような影響は見られませんでした。
また学歴の高い母親も、比較的心の状態を保てていたといいます。
ポイント
休校は一律の政策でしたが、その影響は社会的に弱い立場にある家庭ほど重く出ました。
つまり緊急時の政策が、もともとあった格差をさらに広げる可能性を示したのです。
なぜ小学生の母親に負担が集中したのでしょうか。
小学生は一人で留守番や学習を進めるのが難しい年齢です。
中学生であれば、ある程度自立して過ごせる時間が長くなります。
また学歴による差には、在宅勤務の可否や経済的余裕が関係していると考えられます。
この研究の大きな貢献は、休校という政策が
「ジェンダーと学歴によるメンタルヘルス格差」
を拡大させたと示した点にあります。
日常で活かせること – 実践的活用法・3つ以上の具体策

この研究から、家庭や学校、地域が学べることはたくさんあります。
子どもを支えるには、まず大人の心を守る視点が欠かせません。
ここでは今日から取り入れられる具体策を紹介します。
1. 家庭内での役割分担を見える化する
育児や家事の負担が誰に偏っているかを、一度書き出してみましょう。
見える化することで、偏りに気づきやすくなります。
気づいたら、できる範囲で分担を調整することが大切です。
完璧な折半ではなく、お互いの状況に応じた柔軟な工夫で十分です。
2. 学校や地域が「親のケア」にも目を向ける
緊急時には、子どもだけでなく親のメンタルも揺らぎます。
学校からの連絡は、保護者を追い詰めないトーンを心がけたいところです。
地域では、孤立しがちな家庭への声かけや相談窓口の周知が有効です。
子どもの学びを支えるには、その家庭全体を支える姿勢が必要だといえます。
3. 自立度に応じた子どもへの関わり方を考える
小学生と中学生では、必要なサポートの量が大きく異なります。
年齢や発達に合わせて、少しずつ自分でできることを増やしていきましょう。
小さな家事やセルフ学習の習慣は、いざという時の家庭の支えになります。
4. メンタル不調のサインを早めにキャッチする
眠れない、食欲がない、イライラが続くなどは心の疲れのサインです。
大人も子どもも、不調を感じたら無理をせず休むことが第一歩です。
必要なら医療機関や相談窓口の活用もためらわないでほしいと思います。
5. 政策や制度に関心を持ち、声を届ける
この研究は、政策が社会的格差を広げる可能性を示しました。
現場の声を届けることが、次の危機への備えにつながります。
署名やアンケート、地域の意見交換会など、できる形で関わってみましょう。
まとめ

一斉休校という大きな出来事は、親のメンタルヘルスに深い影響を与えました。
特に小学生を持つ学歴の低い母親に負担が集中したという事実は重く受け止める必要があります。
- 休校は母親のメンタルを悪化させ、父親への影響は限定的だった
- 影響は学歴や子どもの年齢によって大きく異なっていた
- 緊急時の政策は、既存の格差を広げる可能性がある
ぜひ今日から、教育や学びの場で取り入れてみてください。
【参考論文】
School closures and mental health during the COVID-19 pandemic in Japan
著者: Eiji Yamamura, Yoshiro Tsustsui(2021年)
DOI: https://doi.org/10.1007/s00148-021-00844-3