100人の日英バイリンガルを調べた調査で、英語のRとLの習得と耳の精度の関係が報告されています。
RとLは日本語にない区別のため、長年学んでも苦手なままという人は少なくありません。
同じように学んでも、上達に大きな個人差が生まれるのはなぜでしょうか。
その答えの一つは、言葉ではない音を聞き分ける力にあるのかもしれません。
この記事では耳の精度と英語習得の関係と、家庭や教室でできる音の感度の育て方を紹介します。
目次
RとLの聞き分けは耳の精度と関係

まずは調査の中身と、経験の影響力を見ていきます。
100人の日英バイリンガルを調査
今回手がかりにするのは、研究者のKazuya Saitoさんたちが2022年に学術誌Cognitionで発表した調査です。
対象は思春期以降に英語を本格的に学び始めた、100人の日本語母語話者でした。
- 対象:日本語母語の英語学習者100人
- 課題:英語のRとLの聞き取りと発音
- 測定:言葉ではない音の聞き分けテスト
言葉ではない音とは、機械音のような音の高さや長さを聞き比べる課題を指します。
参加者の背景は教室学習が中心の人から留学経験者までさまざまでした。
英語漬けの経験が大きく影響
データを分析すると、海外で英語漬けになった経験の有無が成績を大きく左右していました。
豊かな英語環境に身を置くことは、発音習得の強力な土台になると言えるでしょう。
とはいえ経験だけですべての差を説明できたわけではありません。
残りの差を埋めたのは耳の精度
実は似た経験を持つ人の間でも、成績には大きな開きが残るという結果でした。
経験で説明できない部分にこそ、個人差の鍵が隠れているようです。
その差と結びついていたのが音を細かく聞き分ける力という点が、今回の大きな発見です。
ポイント
RとLの上達には経験の量に加えて、音の違いを聞き取る耳の精度が関係していました。
上達のルートは一つではない

ここからは決め手となる音の手がかりと、人による戦略の違いを掘り下げます。
決め手は日本語にない新しい手がかり
RとLを分ける一番確かな目印が、F3(第3フォルマント)だと分かっています。
フォルマントとは、声の響きを特徴づける周波数の成分を指す言葉です。
F3は日本語ではほとんど使われないため、学習者には新しい手がかりにあたります。
調査ではこのF3の変化に敏感な人ほど、聞き取りと発音の成績が高い傾向を示しました。
慣れた手がかりを活かす人もいた
一方で日本語にもなじみ深いF2(第2フォルマント)に敏感な人も、良い成績を収めていました。
F2はRとLの区別ではあてになりにくいものの、補助的な武器になっていたようです。
手持ちの力を組み合わせて弱点を補う、柔軟な学び方と言えます。
母語話者と同じやり方でなくても高いレベルに届くと示した点は、心強いのではないでしょうか。
ポイント
実際の会話には、複数の音の手がかりが同時に含まれています。
新しい目印を磨く人も慣れた目印を組み合わせる人も、それぞれの戦略で聞き分けに成功していました。
家庭や教室で音の感度を育てる工夫

最後に音に親しむ練習と、個人差への向き合い方を提案します。
意味より先に音の違いへ耳を澄ます
最初の一歩としてrightとlightのように、一音だけ違う単語を聞き比べる遊びが役立ちます。
正解を急がせず、どこが違って聞こえたかを言葉にしてもらう工夫も効果的です。
大人も一緒に迷いながら聞くと、挑戦しやすい雰囲気が生まれやすくなるでしょう。
家庭ならクイズ形式に、教室ならペア活動にすると続けやすいはずです。
本物の英語を毎日浴びる環境づくり
調査で最も影響が大きかった要因は、英語にどっぷり触れた経験でした。
留学だけが道ではなく、動画や歌、音声付きの絵本も立派な入り口になってくれます。
毎日英語の音に触れる時間づくりが、遠回りに見えて確かな近道と言えそうです。
聞こえ方の個人差を認める
人によって頼る手がかりが違うことは、今回の調査からも明らかになりました。
「聞き取れないのは努力不足」
と決めつけない姿勢が、家庭でも教室でも求められます。
なお今回の結果は相関関係を示したもので、耳を鍛えれば必ず上達するという因果までは証明されていません。
それでも音へ注意を向ける練習には、聞き分けの土台づくりとして試す価値があります。
ポイント
聞き比べ遊びで音への注意を育て、毎日の英語音声で耳の経験値を増やしてみましょう。
まとめ

英語のRとLの習得は、経験の豊かさと耳の精度の両方に支えられていると分かりました。
そして上達の道筋は一つではないという視点が見えてきます。
- 100人の調査で耳の精度と発音習得の関係を確認
- 決め手は日本語にない新しい音の手がかり
- 慣れた手がかりを組み合わせる戦略でも上達できる
ぜひ今日から、教育や学びの場で取り入れてみてください。
【参考論文】
Auditory precision hypothesis-L2: Dimension-specific relationships between auditory processing and second language segmental learning
著者:Kazuya Saito, Magdalena Kachlicka, Yui Suzukida, Katya Petrova, Bradford Lee ほか(2022年)
DOI:https://doi.org/10.1016/j.cognition.2022.105236